- 2026年8月診療分から、高額療養費の月の上限が引き上げられ、同時に「年間上限」(8月〜翌7月)ができた。70歳未満でいちばん高い区分ア(年収約1,160万円〜)でも、月は270,300円+1%、年は168万円で止まる
- 年収約370万〜770万円の区分ウなら、医療費が月100万円かかっても窓口負担は92,940円。年間の上限は53万円
- 上限の外に出るのは、入院中の食事代、差額ベッド代、先進医療の技術料など。これを足しても、まず考えるべきは医療保険の加入より「いくら現金を手元に置くか」になる
2026年8月から何が変わったか
高額療養費は、1か月の医療費の自己負担が上限を超えたとき、超えた分を健康保険が払い戻す制度です。会社員の健康保険も、国民健康保険も、同じ仕組みを持っています。
厚生労働省の制度ページ(2026年7月31日更新)と協会けんぽの案内によると、2026年8月診療分から変わったのは2点です。
- 月単位の自己負担限度額を、所得区分ごとに引き上げた。4か月目以降に下がる「多数回該当」の金額は据え置き
- 年単位の上限額(年間上限)を新設した。期間は8月から翌年7月まで
月の上限は上がりました。一方で、年に何度も上限近くまで払う人、または毎月の上限には届かないが治療が1年続く人は、年間上限で負担が止まるようになっています。厚労省の資料は年収約370万〜770万円の人の例として、年間の自己負担が57.3万円から53.0万円に、76.7万円から53.0万円に下がるケースを図示しています。
年間上限の分を払い戻す申請は、協会けんぽの案内では2027年8月から始まる予定です。
所得区分別の上限
70歳未満の表です。会社員は標準報酬月額、自営業などの国民健康保険は旧ただし書き所得で区分が決まります。年収の目安は厚労省資料の「年収換算」をそのまま載せました。
| 区分 | 年収の目安 | 標準報酬月額(健保) | 月の上限 | 多数回該当(4か月目〜) | 年間上限 |
|---|---|---|---|---|---|
| ア | 約1,160万円〜 | 83万円以上 | 270,300円+(医療費−901,000円)×1% | 140,100円 | 168万円 |
| イ | 約770万〜1,160万円 | 53万〜79万円 | 179,100円+(医療費−597,000円)×1% | 93,000円 | 111万円 |
| ウ | 約370万〜770万円 | 28万〜50万円 | 85,800円+(医療費−286,000円)×1% | 44,400円 | 53万円 |
| エ | 〜約370万円 | 26万円以下 | 61,500円 | 44,400円 | 53万円 |
| オ | 住民税非課税 | ― | 36,900円 | 24,600円 | 29万円 |
「医療費」は保険がきく診療の総額(10割分)です。窓口の3割負担額ではありません。
区分エのうち標準報酬月額15万円以下と確認できた人には、年間上限41万円が適用され、2027年8月以降に差額が払い戻されます(協会けんぽ)。
改定前(2026年7月診療分まで)の区分アは252,600円+(医療費−842,000円)×1%でした。基本部分だけで17,700円の引き上げです。
合算と多数回該当の条件
協会けんぽの案内から、つまずきやすい条件を拾っておきます。
- 多数回該当は、直近12か月で高額療養費を受けた月が3か月以上あると、4か月目から適用される。転職などで保険者が変わると回数はつながらない
- 家族(被保険者と被扶養者)の自己負担は合算できる。ただし70歳未満は、医療機関ごと・入院外来別に見て21,000円以上の分だけが合算の対象
- 年間上限の申請でも、合算の扱いは通常の高額療養費と同じ
医療費100万円の月、いくら払うか
1か月の医療費(10割)が100万円だった場合を、区分ごとに計算しました(編集部計算)。
- 区分ア:270,300円+(1,000,000円−901,000円)×1%=271,290円
- 区分イ:179,100円+(1,000,000円−597,000円)×1%=183,130円
- 区分ウ:85,800円+(1,000,000円−286,000円)×1%=92,940円
- 区分エ:61,500円
- 区分オ:36,900円
3割負担なら窓口では一度30万円を請求されますが、上限を超えた分は戻ります。区分ウなら、手元から最終的に出ていくのは9万円台です。
「1%」の部分は、医療費が増えてもゆっくりしか増えません。区分ウで医療費が200万円になっても、上限は85,800円+17,140円=102,940円です。
年収1,160万円以上はどうか
「年収が高い人は月25万円以上払うのだから医療保険が要る」とよく言われます。これを改定後の数字で置き直します。
区分アで、毎月上限まで払う治療が1年続いたとします。最初の3か月は月27万円台、4か月目からは多数回該当の140,100円です。
- 27.1万円×3か月+14.01万円×9か月=約207万円(編集部計算、医療費が毎月100万円の場合)
- 年間上限168万円で止まるので、実際の負担は168万円
年収1,160万円の世帯にとって168万円は小さくありません。それでも、年収の約15%です。手取りに対する比率はもう少し上がりますが、「数年分の生活費が飛ぶ」額ではない。上限が最初から決まっている以上、備え方は「この額の現金を確保しておけるか」の問題になります。
区分ウなら同じ計算で年53万円。区分エも53万円です。
治療期間はどれくらいか
上限の話は「何か月続くか」とセットで見ないと実感がわきません。厚労省の患者調査(2023年9月に退院した患者)では、退院患者の平均在院日数はこうなっています。
| 年齢 | 総数 | うち悪性新生物(がん) |
|---|---|---|
| 15〜34歳 | 10.5日 | 14.0日 |
| 35〜64歳 | 20.2日 | 10.7日 |
| 65歳以上 | 35.5日 | 15.5日 |
働く世代の入院は、平均で見れば1か月以内に収まっています。がんでも35〜64歳は平均10.7日です。精神疾患(35〜64歳で187.1日)や脳血管疾患(同44.5日)のように長いものもあり、平均だけで判断できないのは確かです。ただ、長い入院ほど多数回該当と年間上限が効いてきます。
上限に入らないお金
協会けんぽの案内は、保険外併用療養費の差額部分、入院時の食事代、生活療養費の自己負担は高額療養費の対象にならない、と書いています。主なものを金額つきで並べます。
入院中の食事代
1食あたりの標準負担額は、70歳未満で住民税課税世帯の場合550円です(横浜市の案内、2026年6月16日更新)。1日3食なら1,650円、20日の入院で33,000円です(編集部計算)。住民税非課税世帯などは減額があります。
差額ベッド代
個室や少人数部屋を使ったときの「特別の療養環境室料」です。中医協に報告された2025年8月1日時点の全国集計で、1日あたりの平均徴収額(推計)は次のとおりでした。
| 部屋 | 1日あたり平均 |
|---|---|
| 1人室 | 8,710円 |
| 2人室 | 3,161円 |
| 3人室 | 2,815円 |
| 4人室 | 2,894円 |
| 全体 | 7,026円 |
最低は50円、最高は385,000円と幅があります。1人室を20日使えば平均で174,200円(編集部計算)。高額療養費の上限より大きくなることもある費用ですが、大部屋を選べばかかりません。
先進医療の技術料
厚労省が定めた先進医療は、診察や入院など通常の診療部分は保険がききますが、先進医療の技術料は全額自己負担です。
中医協の2026年1月の資料(2024年7月〜2025年6月の実績)から、高額になりやすい粒子線治療の2技術を拾うと次のとおりです。1件あたりは先進医療費用の総額を実施件数で割った編集部計算です。
| 技術 | 実施件数 | 先進医療費用の総額 | 1件あたり(編集部計算) |
|---|---|---|---|
| 陽子線治療 | 739件 | 約20.6億円 | 約278万円 |
| 重粒子線治療 | 303件 | 約9.7億円 | 約319万円 |
同じ期間の先進医療全体の患者数は211,153人、先進医療費用の総額は約126.5億円でした。1人あたりにならすと約6万円(編集部計算)。高額になる技術は一部で、受ける人の数も限られています。先進医療を受けるかどうかは、医師から提案があってから決めることで、事前に確率を見積もるのは難しい費用です。
そのほか
- 保険がきかない自由診療(未承認の薬など)
- 入院中の日用品、家族の交通費、テレビカード
- 診断書の文書料
これらは制度の外にあり、金額も人によって大きく違います。
貯蓄でいくら持っていれば足りるか
ここまでの数字で、働く世代が20日入院し、医療費が100万円かかった場合を組み立てます(編集部計算)。
| 費用 | 区分ウ | 区分ア |
|---|---|---|
| 高額療養費の上限 | 92,940円 | 271,290円 |
| 食事代(550円×3食×20日) | 33,000円 | 33,000円 |
| 小計(大部屋) | 125,940円 | 304,290円 |
| 1人室を選んだ場合(平均8,710円×20日) | +174,200円 | +174,200円 |
区分ウの人が大部屋で入院するなら、出ていくのは13万円前後。区分アの人が個室を選んでも50万円弱です。
1年にわたる治療の最悪ケースでも、高額療養費の部分は区分ウで53万円、区分アで168万円が天井です。これに食事代などの対象外費用が乗ります。
この額を預貯金で持てているなら、医療保険の入院給付金がなくても治療費は払えます。たとえば入院日額5,000円の医療保険は、20日の入院で10万円を受け取る設計です。20日入院の自己負担13万円前後のうち10万円を埋める保障を、毎月の保険料で買い続けている、という見方になります。
収入が減る分は別の制度で見る
入院や療養で働けない期間の収入は、治療費とは別の話です。会社員が入る健康保険には傷病手当金があり、協会けんぽの場合、休み始めて連続3日の待期のあと4日目から、標準報酬月額の平均÷30日×3分の2が1日あたりで出ます。期間は同じ病気で通算1年6か月です。
自営業・フリーランスが入る国民健康保険では、傷病手当金は条例や規約で定めれば支給できる任意の給付です(国民健康保険法第58条第2項)。義務ではありません。同じ入院でも、会社員と自営業では手元資金の目安が変わります。
医療保険が残る場面
医療保険がいつも不要だとは言えません。次のような場合は、保険料と受け取れる額を並べて考える余地があります。
- 預貯金が、自分の区分の年間上限(ウなら53万円)に届いていない
- 自営業で傷病手当金がなく、入院中の生活費まで同じ貯蓄から出す
- 入院するなら個室を使うと決めていて、差額ベッド代を保険で埋めたい
- 先進医療の技術料に備えたい
逆に、預貯金が年間上限を十分上回っていて、会社員として傷病手当金もある人は、入院給付金の役割が小さくなります。すでに入っている医療保険を解約するかどうかは、別に考えてかまいません。保険料、残りの払込期間、いまの健康状態で入り直せるかによって、答えが変わるからです。
自分の年収と預貯金で、医療保険が要る側に入るかどうかは自分の数字で試算するで確かめられます。医療保険の候補と公的保障の詳しい比較は、ガイド医療保険の候補一覧と、公的保障でまかなえる分にまとめています。
2027年8月からさらに変わる予定
厚労省の資料には、2027年8月診療分からの表も載っています。70歳未満は、住民税非課税区分を除いて13区分に細かくなる予定です。
- 年収約1,650万円以上は、月342,000円+(医療費−1,140,000円)×1%。年間上限は168万円のまま
- 年収約1,410万〜1,650万円は、月303,000円+1%
- 年収約200万円未満は、多数回該当が34,500円に下がり、年間上限は41万円
区分アの年間上限168万円は、細分化後も同じ金額で予定されています。月の上限が上がっても、年で見た天井は動かない、というのが今回の設計です。
出典
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(2026年7月31日更新) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html
- 厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて(令和8年8月診療分から)」 https://www.mhlw.go.jp/content/001726232.pdf
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「高額療養費」(2026年10月14日確認) https://www.kyoukaikenpo.or.jp/benefit/high_cost_medical_expenses/002/
- 中央社会保険医療協議会 総会(2026年7月22日)資料 総-4-2「主な選定療養に係る報告状況」 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001726223.pdf
- 中央社会保険医療協議会 総会(2026年1月14日)資料「先進医療の実績報告について」(令和6年7月1日〜令和7年6月30日) https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001631230.pdf
- 厚生労働省「令和5年(2023)患者調査の概況」(2024年12月20日)表6 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/23/dl/kanjya.pdf
- 横浜市「入院時食事療養・入院時生活療養」(2026年6月16日更新、2026年10月14日確認) https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/koseki-zei-hoken/kokuho/iryo/hospitalization.html
- 協会けんぽ「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」(2026年10月14日確認) https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat620/r307/
- 国民健康保険法 第58条第2項(e-Gov法令検索、2026年10月10日確認) https://laws.e-gov.go.jp/law/333AC0000000192
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